約 1,746,492 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/701.html
ルイズは今夜も夢を見ていた。古ぼけた部屋の中の、かすみがかった人物達の夢。 ルイズはまた自分ではない誰かになっていて、かすみがかった部屋でかすんだ姿の まま、かすんだ男達と音の擦り切れた会話を交わしていた。 あの使い魔、ギアッチョを召喚した時から――いや、正確にはギーシュとの決闘を 終えた日から、ルイズはこの不思議な夢ばかりを見るようになっている。 使い魔となった者は、主人の目となり耳となる能力や人語を解する能力などを手に 入れる。ギアッチョにはそんな力はなかったが、ひょっとするとそれが夢の共有と いう形で発現しているのかもしれないとルイズは考えた。もしそうだとすると、この 夢を決闘の翌日から見るようになったということは――あの決闘を通して、 ギアッチョが自分を少し認めてくれたということなのかもしれない。ならば、と ルイズは思う。日々霧が晴れるように鮮明さを増してゆくこの夢は、彼が徐々に 心を開いていってくれているということなのだろうか。勿論、霧が全て消えれば 信頼度MAXなどというわけではないのだろうが、興味なんてさらさら無いように 見えるギアッチョが日々内心自分に心を開きつつあると思うと、ルイズはなんだか 無性に嬉しかった。 「どこに行くのよ」 ドアに向かって立ち上がったギアッチョにルイズが問いかける。外はもう双月が 煌々と輝いている時間である。 「剣の練習だ」 ギアッチョはそう言って喋る魔剣デルフリンガーを掴む。 「ちょっと待って わたしも行くわ」 そう言ってベッドから跳ね起きるルイズをギアッチョは物珍しげな眼で見る。 「ああ?何しに行くんだよ」 「何しにって・・・こっ、このわたしが見てあげるって言ってるのよ!ありがたく 思いなさい!」 ルイズはそう言うとギアッチョより先にドアを開けて行ってしまった。ギアッチョは その後姿を眺めながら、 「全くコロコロと機嫌の変わるヤローだなァァ あれが女心と秋の空ってヤツか? え?オンボロよォォ~~」 デルフリンガーの柄を鞘からわずか引き抜いて言う。話を振られた魔剣は、 「えっ!?あ、ハ、ハイ そのようでダンナ・・・」 先日ギアッチョにタンカを切った時の威勢のよさは微塵も無くなっていた。 ギアッチョが中庭へ出ると、先に到着していたルイズがキュルケと喧嘩をしていた。 その後ろには心配そうに主人を見守るフレイム。二人をサイドから眺めるような 位置でタバサが本を読んでいる。 「何でてめーらがここにいる?」 ギアッチョが当然の疑問を発すると、 「ちょっと食べすぎちゃったのよ で、運動しようと思ったらこのおチビちゃんが やって来たワケ」 返答にもルイズへの罵倒を織り交ぜるキュルケだった。 「だ、誰がチビよ!このストーカー!」 「ストッ・・・!?」 「ストッ・・・!?」 ルイズの一撃はキュルケの心を見事に刺し貫いた。別に感謝されたくてやって いたわけではないが、それにしたってキュルケの行動は――無論本人は肯定など しないだろうが――ひとえにルイズを心配するが故なのである。そこに気付いて いないとはいえ、ルイズのこの一言は相当なダメージだった。 「・・・ストーカーね・・・ フフフ・・・ストーカーですって・・・」 がっくりと肩を落としてブツブツと呟くキュルケに流石のルイズも異変を感じたのか、 「えっ!?ちょっとわたし何かした!?」とタバサに助けを求めている。 タバサが「どっちもどっち」と呟いたのを合図に、ギアッチョは彼女達から魔剣へと 視線を移す。 「で? どーすりゃあいいんだオンボロ」 「ど、どうするって?」 「剣なんざ扱ったこともねーって言わなかったか?喋れんなら剣の指南ぐれー 出来るだろ 前の持ち主の剣術とかよォォー」 完全に人まかせ、否剣まかせのギアッチョである。 「あっ、あーあーなるほど!だからダンナはわざわざこの俺をお買いになられた わけッスねェー!さすがはギアッチョのダンナ!」 デルフリンガーはなんとかギアッチョの機嫌を損ねまいと頑張っている。 「てめーそのダンナってのはどうにかならねーのか?」 「え・・・いや、相棒ってのもなんか違うし兄貴はもう取られてるし・・・」 よく分からないことを言い出すデル公だった。 「まぁいい で、結局どーすんだ」 「どうするって言われても・・・え、えーと じゃあとりあえず剣を抜いて・・・」 ギアッチョは言われるままに柄に手をかけ、剣を引き抜き―― バッグォォオオン!! 突如として中庭に轟音が鳴り響いた! 「何・・・だァァ~~~?」 ギアッチョが音のしたほうを振り向くと、岩が集まったような巨大な化け物が 本塔の壁を殴りつけているところだった。 「あれも使い魔だってェのか?」 抜きかけた剣を収めてルイズ達と合流したギアッチョが問う。 「あれはゴーレムよ それもとんでもなく大きい・・・!あんなものを練成する なんて・・・少なくともトライアングルクラスのメイジだわ」 どうやらあれは魔法によって作られるものらしい。彼女達の反応を見るに、 相当高度な魔法のようだ。 「なんにしても・・・見過ごすわけにはいかないわね!」 言うが早いかキュルケが走り出し、 「ちょっ、何やってんのよ!」 ルイズがそれを追いかける。タバサはギアッチョにちらりと眼を向けると、 「危険」 一言告げて先の二人を追いかける。ギアッチョは一つ大げさに溜息をつくと、 仕方なく彼女達のあとに続いた。 ゴーレムの肩の上に、黒衣に身を包んだ女性が立っている。彼女――土くれの フーケは、今まさに「仕事」の只中であった。大怪盗の名を持つ彼女の今宵の 目的は、トリステイン魔法学院本塔の宝物庫に秘蔵されている「破壊の杖」で ある。幾重にも封印が施された扉からの侵入を諦めた彼女は、魔法の薄い 外壁のほうを狙っていた。しかし内側よりは防御が甘いとは言え、高レベルの メイジがかけた固定化の魔法はそう簡単に破れるものではない。ゴーレムの 拳に、本塔の外壁は全くこたえた様子を見せなかった。しかしフーケは 慌てない。ぶつぶつと何事か呟くと、ゴーレムの両腕は鋼鉄の塊へと変じた。 フーケのゴーレムはそのまま壁へと突きのラッシュを放ち――何度目かの 突きで、固定されていた壁は見事に爆砕した。 フーケはちらと地面を見下ろす。学院の生徒達が何名かこちらに向かって いるが、彼女はクスリと笑うとそのまま宝物庫へと侵入した。 キュルケは走りながら魔法を唱え、ルイズとタバサがそれに続く。三者三様の 魔法が激突するが、多少の破損が認められるだけでゴーレムは問題なく 動き続ける。小うるさいアリ共を潰すべく、動く岩塊が右腕を打ち下ろし、 「きゃああっ!?」 間一髪逃れた三人に容赦なく左腕が振り下ろされる! 殺られる――!!ルイズは死を覚悟した。 しかし鉄の拳が彼女達を押しつぶす寸前、タバサが魔法を発動させる! バシィィィンッ!! タバサが打ち込んだ風がゴーレムの拳を刹那弾き返し、 「逃げて」 言うや否や二人に杖の先を向ける。 「なッ・・・タバサ!!」 タバサの風に二人はゴーレムの射程外まで吹っ飛び、そして再び呪文を 唱える間も、ましてや逃げる間も少女達の悲鳴が届く間もなく、タバサを 鋼鉄の拳が―― ズンッ!! 圧死の痛みの代わりに誰かに抱きかかえられる感触を感じて、タバサは 閉じていた眼を開いた。少女の眼に最初に飛び込んできたものは、 幾度も眼にしたことのあるボタンの多い服。そして彼女の頭上で、幾度も 耳にした声が響いた。 「てめー・・・シルフィードだったか?なかなかガッツがあるじゃあねーか」 ギアッチョが飛び乗ったシルフィードは、彼が何かを言う前に主人目掛けて 亜音速で飛来し、ゴーレムの拳が地面に激突する一瞬の間隙を縫って 主人を救い、空へと上昇した。タバサを捕まえたのはギアッチョである。 ギアッチョとシルフィード、それぞれが一瞬ですべきことを把握しなければ 出来ない芸当だった。使い魔同士の信じられないコンビネーションに、 破壊の杖を抱えて出てきたフーケを含む誰もが呆然と空を見上げていた。 一瞬あっけに取られていたフーケだったが、目的を果たしたことを思い出すと さっさとこの場から逃げることに決めた。地響きを立てて去ってゆくゴーレムを 見送って、 「大丈夫」 とタバサは一言口にする。それを合図にギアッチョが抱えていた手を離し、 タバサの命で風竜はゆるゆると地上へ向かった。 「――ありがとう」 シルフィードが地面に降り立つ直前、タバサは小さな声で言う。ギアッチョは 一瞬だけタバサに眼を遣ると、フン、と鼻を鳴らした。 「タバサ!!大丈夫!?タバサ!!」 「無事なのあんた達!?」 地上に戻った2人と1匹に、キュルケとルイズが駆け寄る。その顔は今にも 泣き出しそうだった。ギアッチョは3人を見渡して、誰にも怪我がないことを 確認すると、 「てめーらそこに並びな」 彼女達を一列に整列させる。 そしてルイズ達に待っていたのは。 「このッ・・・バカ野郎共がッ!!!」 鬼も裸足で逃げ出さんばかりのギアッチョの怒鳴り声だった。
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/27.html
【種別】 地名 【解説】 ゼロの使い魔の舞台になっている大陸の名。 現代ヨーロッパの地形に酷似している。 【備考】 ☆断じてハルキゲニアではない。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1204.html
この宿、「女神の杵」亭が砦であった頃の栄華を偲ぶ中庭の練兵場。 そこがギアッチョとワルド、二人の決闘の舞台だった。 腰を落として我流というよりは全く適当に剣を構えたまま、ギアッチョは心中で舌打ちする。 ――怒らせて手の内を曝け出させるつもりだったが・・・やっぱりそう上手くはいかねーらしい 敵もさる者、この程度の挑発で逆上するような器量ではないようだ。「流石は女王の護衛隊長ってわけか」とギアッチョは一人呟く。 しかしそれならそれで別にいい。少なくとも戦い方の一端は把握出来るはずだ。 ギアッチョは己の左手に眼を落とす。その甲に刻まれたルーンは、手袋の下からでもよく分かる光を放っていた。 「どうしたね使い魔君 来ないのならばこちらから行くよ」 一向に動こうとしないギアッチョを挑発すると、ワルドは地を蹴って駆け出す。 戦い慣れた者の素早さで一瞬にしてギアッチョに肉薄すると、レイピアのように作られた杖で無数の刺突を繰り出した。 風を切り裂いて繰り出されるそれをギアッチョはデルフリンガーで次々と捌く。 ――こいつはすげぇな・・・正に「身体が羽のように軽い」ってやつだ。 己の剣捌きに一番瞠目していたのは、他ならぬギアッチョ自身であった。 素の状態でもワルドの突きをかわす自信はあるが、今のギアッチョは例え千回突かれようがその全てをかわし切れる程に楽々とそれを捌いていた。 が、予想以上の「ガンダールヴ」の能力に意識が完全にワルドから逸れていた為、突きと同時に行われていた詠唱にギアッチョは気付けなかった。 詠唱が完了したと同時に目の前の空気が弾け、 「うぉおッ!?」 空気の槌をモロに受けてギアッチョは吹っ飛んだ。 ごほッと肺から空気を吐き出しながらもギアッチョはとっさに空中で体勢を整え、デルフリンガーを地面に突き刺して転倒を回避する。 「おいおい、ガードぐらいしたらどうだい? 手加減はしてあるが下手をすれば肋骨が折れるぞ」 羽根帽子のつばを杖の先端で持ち上げて、ワルドはニヤリと笑った。 ルイズが心配げに見守る中、ギアッチョはチッと一つ舌打ちをしてから剣を抜く。 「大丈夫かいダンナ」 「ああ?この程度じゃノミも殺せねーぜ」 若干ふらつきながらも、デルフリンガーにギアッチョは何でもないといった顔でそう返す。 ギアッチョは無傷で勝つことも少なくはなかったが、スタンド使い同士の戦いでは瀕死の怪我を負ったり手足が切り飛ばされたりなどということは珍しい話ではない。 それに比べれば今のダメージなど正に蚊に刺されたようなものであった。 余裕の笑みを浮かべるワルドにガンを飛ばして、今度はこっちの番だと言わんばかりに走り出す。 ワルドは杖を突き出して既に詠唱を終えていたエア・ハンマーで迎撃するが、歪んだ空気の塊が衝突する寸前ギアッチョは「ガンダールヴ」の脚力で右へ飛び避けた。 規格外のその脚力をフルに利用して、ギアッチョは一瞬でワルドの背後を取る。 そのまま身体をねじらせてデルフリンガーを一閃するが、ワルドは一瞬の判断でギアッチョに体当たりし、身体でその腕を止めた。 「・・・君、今首を狙ったな」 身体を衝突させ合った格好のまま、ワルドが鋭い眼で睨む。 「わりーな いつものクセでよォォー、次からは気をつけるとするぜ それよりてめー・・・なかなか素早い判断が出来るじゃあねーか」 「当然だ 女王の護衛を任される者の実力を舐めないことだな」 言うが早いかワルドはぐるりと回転してギアッチョに向き直り、そのまま流れるような動作で三発目のエア・ハンマーを放った。 下からアッパーの要領で撃ち出された風の槌はギアッチョを空高く打ち上げる――はずだったが、 「何・・・?」 ボドンッ!!といういつもの景気のいい打撃音は全く聞こえず、上空高く吹っ飛んでいるはずのギアッチョは数十サント浮き上がっただけで大したダメージもなく着地して いた。 デルフの口からは「おでれーた」という言葉が漏れていた。どうやったのかは分からないが、今自分は魔法を吸収した気がする。 しかし彼が己のしたことを完全に理解するより先に、ギアッチョは次の行動に移っていた。 メイジではないギアッチョは、今の現象をただの不発か角度その他の問題―― 要するに偶然だと考えた。 喋る魔剣を乱雑に構え直すと、色を失くした双眸でワルドを射抜く。 ――同じ魔法を三連発・・・工夫も何もありゃしねえ 手の内見せる気は更々ねえってわけか まあそれもいいだろう。剣のいい練習台にはなる。ギアッチョは足に力を込めると、地面を変形するほどの勢いで蹴って走り出した。 一方ワルドは、エア・ハンマーを打ち破ったものの正体に早くも勘付いていた。 ――あの剣に我が風が吸い込まれるのを感じた・・・どういう原理かは知らないが、どうやら魔法を吸収するマジックアイテムのようだな・・・ 杖をヒュンヒュンと振り回してから構え、ワルドは呟いた。 「それならそれでやりようはある」 「彼はどうして魔法を使わないんだろう?」 決闘を見物に来ていたギーシュが、ロダンの彫刻のようなポーズで言う。 同じく本を閉じて二人を見ていたタバサは、それを聞いてぽつりと口を開いた。 「力を隠してる」 「まあ、確かに王宮の関係者にアレがバレたら一悶着ありそうだものねぇ」 うんうんと頷いてキュルケが同意する。その横ではルイズがずっとブツブツ文句を言っていた。 「何よあのバカ・・・いつもいつも勝手なことばかりするんだから・・・!そりゃ使い魔だって物じゃないけど、たまには言うこと聞いてくれたっていいじゃない! ワルドもワルドよ いつもはこんなことする人じゃないのに・・・」 怒りと不安がないまぜになった顔で呟くルイズの肩にポンポンと手を置いて、ギーシュは遠い眼をする。 「分かってやりたまえルイズ 男にはやらねばならない時というものがあるのさ」 分かったようなことを言うギーシュにジト眼を送ってから、ルイズは複雑な顔でギアッチョ達に視線を戻した。 「全然分からないわよ バカ・・・」 決闘直後とは正反対に、今度はギアッチョが怒涛の勢いでワルドを攻め立てていた。 袈裟斬りから斬り返し、そのまま薙ぎ払いから突きを繰り出し、全く型というものを感じさせない動きで息つく暇なく攻め続ける。 言ってしまえば完全にでたらめな剣捌きなのだが、「ガンダールヴ」の力で繰り出される剣撃は力といい速度といいそれだけで大変な脅威であった。 しかしワルドは風を裂いて繰り出されるそれをひらりとかわしするりと受け流し、涼しい顔で避け続ける。 そしてギアッチョがデルフリンガーを大きく振り下ろした瞬間、ワルドは攻勢に転じた。 地面まで振り下ろされた魔剣を完璧なタイミングで踏みつけ、同時に手刀で喉を突きにかかる。ギアッチョは即座に左手でそれを払いのけたが、その瞬間胸に押し当てられた杖までは手が回らなかった。 ドフッ!! 空気が炸裂する音が響き、 「ぐッ!!」 人をあっさり数メイルも吹き飛ばす衝撃を再び真正面から喰らって、ギアッチョは豪快に吹っ飛んだ。ギアッチョはなんとかバランスを保って着地したが、 「剣を手放したな、使い魔君 勝負ありだ」 主人の手から離れた剣を踏みつけたまま、ワルドが勝利を宣言する。てめー足をどけやがれとデルフリンガーがわめいているが、彼はそれを軽く無視して続けた。 「やはり『ガンダールヴ』、とてつもない膂力だが・・・君の太刀筋はまるで素人だ」 自分を睨むギアッチョから眼を外して、ワルドはルイズへと歩いて行く。 「分かったろうルイズ 彼では君を守れない」 そう言ってルイズの肩を抱くと、後ろ髪を引かれるルイズを伴ってワルドはギアッチョに振り返ることもせず宿へと戻っていった。 そりゃあ剣なんざ今日初めて使ったからな、と彼が心の中で笑っていたことも知らずに。 恐る恐るギアッチョの様子を見ていたギーシュ達は、どうやら彼が怒っていないと知ってバタバタと駆け寄った。 「怒らないのね?ギアッチョ」 「意外」 キュルケとタバサが珍しいといった顔でギアッチョを見る。そんな彼女達に眼を向けて、ギアッチョはフンと鼻を鳴らして笑った。 「初めて剣を使った人間を本気で攻撃する野郎に怒りが沸くか?笑いをこらえるのに必死だったぜ」 初めてという言葉に、三人の顔はますます驚きの色を濃くする。 「ええ!?だ、だってあんな凄い動きしてたじゃない!」 その場の疑問を代表して口にするキュルケに、 「ルーンが光ってた」 フーケ戦の時と同じ、とタバサが鋭く指摘した。ギアッチョは数秒の黙考の後、 「・・・全くよく観察してるじゃあねーか ええ?タバサ」 諦めたように溜息をつくと、手袋をずらして左手をかざした。 「『ガンダールヴ』のルーンらしい 伝説の使い魔の印だとよ」 「が、がん・・・?何・・・?」 何それと言わんばかりのギーシュとキュルケにタバサが説明する。 「あらゆる武器を使いこなしたと言われる、始祖ブリミルの使い魔」 「嘘っ!?」「凄っ!」とそれぞれの反応を返す彼らの前で、ギアッチョは既に鞘に収めていたデルフリンガーを抜き放った。途端、左手のルーンが光り出す。 ギーシュ達がおおーだのうわーだのと感嘆の声を上げるのを確認してから、ギアッチョはデルフを収め直した。 「伝説だなんだと言われてもよく分からんが、あらゆる武器を操れるってなマジらしい 武器に触れるとそいつの情報が勝手に流れ込んで来る上に体重が無くなったみてーに身体が軽くなりやがる 大した能力だぜ」 練兵場跡でガンダールヴについてひとしきり歓談したところで、ギーシュがうーんと唸る。 「しかしやっぱり悔しいなぁ」 「ああ?」 「君の魔法は隠さなきゃならないってことは分かるんだが、君はワルド子爵にきっとある日突然伝説の力を得ただけのただの平民だと思われているだろう? それがどうにも悔しいというか歯がゆいというか」 ギーシュの言うことがよく分からず、ギアッチョは怪訝な顔で聞く。 「何でてめーが悔しいんだ」 「いや、だって僕達友達じゃないか」 「・・・友達ィ?」 ギアッチョが素っ頓狂な声を上げるが、ギーシュは全く真面目な顔で先を続ける。 「ルイズもギアッチョも僕の友達だよ 友達が軽く見られるのを何とも思わない奴はいないさ そうだろう?キュルケ、タバサ」 常人ならば赤面するような台詞をこともなげに言ってのけて、ギーシュは実に爽やかな笑顔で二人を見る。タバサは数秒ギアッチョを見つめると、小さくこくりと頷いた。 キュルケはそんなクサいセリフを振るなと言わんばかりにギーシュを睨むが、睨んだこっちが申し訳なくなるほどいい笑顔のギーシュについに負けて、はぁっと大きく溜息をついて口を開く。 「・・・ま、ヴァリエール家に対する累代の宿怨はとりあえず忘れておいてあげなくもないわ」 あくまで余裕の態度を通すキュルケだったが、タバサにぽつりと「素直じゃない」と言われて、 「ち、ちち違うわよっ!」 と途端に顔を真っ赤に染めて否定した。そんなキュルケをタバサは無表情の まま「素直じゃない」とからかい、「違う!」「素直じゃない」「違うっ!」「素直じゃない」の言い争いをギーシュは笑いながら見物していた。 ギアッチョは「友達」というものが嫌いだった。プロシュートではないが、そんなものは幸せな環境というぬるま湯に浸かっている甘ったれたガキ共のごっこ遊びだと思っていた。 普段友達だ何だと声高に叫んでいる奴等ほど急場でそのオトモダチをあっさり見捨てて逃げるものだ。 暗殺の過程や結果でそんな人間を何人も見てきたギアッチョには、「友達」などという言葉は唾棄すべき虚言以外の何物でもなかった。 見ようによっては淡白な関係だったが、彼はリゾットチームの仲間達とは常に鋼鉄よりも固い信頼で結ばれていた。 だからこそ、ギアッチョには「友達」などというものは上辺だけの信頼で寄り集まる愚者を指す言葉にしか思えない。 しかし。しかしギーシュ達はどうだ?ギーシュはルイズをバカにしていたが、家名を賭けてまで彼女に謝罪をした。フーケ戦では身体を張ってフーケの小ゴーレムを 受け止めた。 キュルケはルイズと宿敵であるような素振りを見せているが、ギアッチョがルイズを殺しかけた時真っ先にそれを止めた。ギアッチョがルイズに危害を加えないかを心配してフレイムに監視をさせていたし、フーケ戦ではルイズが心配で彼女に続いて討伐を名乗り出た。 タバサはシルフィードを駆ってギアッチョを止めた。宝物庫の件では文字通り命を捨てる覚悟でルイズ達を救い、その後も怒ることなく討伐を助けた。 そして何より、見なかったことにして逃げ帰ることも出来たというのに、彼女達は己の危険を顧みず傭兵達と剣を交えてまでルイズを助けに来たではないか。 バカバカしい、と言おうとしてギアッチョは口を開く。しかし楽しげに笑いあうギーシュ達にそう言い捨てることは、どうしても出来なかった。 ――甘ったれ共が・・・ 心中そう呟くが、ギアッチョにはもう解っていた。それはカタギには戻れない自分への、ただの言い訳だ。 人殺しだったイタリアの自分と、全てがリセットされたこの世界の自分。彼らの友情を受け入れることは、この世界での生を受け入れること。 ギアッチョは何一つ言葉を発せずに立ちすくんだ。 決断の時は、近い。
https://w.atwiki.jp/zerolibrary/pages/37.html
【解説】 ゼロの使い魔に存在するアイテムの種類。 一般的に市販されているモノや、用途不明のモノ。 あるいは現代社会から流れ着いたモノもそう呼ばれる。 【例】 破壊の杖
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/436.html
変わったな、とギアッチョは思った。何が?他でもない自分自身がである。以前の自分ならルイズの甘言になど耳も貸さなかっただろう。躊躇無く中庭を凍結し、学院中を凍結しただろう。己のスタンドの最強を信じて疑わなかったし、実際無敵であった「例え時を止めるスタンドがいよーと、オレの敵じゃあねーッ」ギアッチョはそう確信していた。10人にも満たないチームで組織に反逆するなどという無謀に乗ったのも、自分の能力ならばボスですら倒せると思っていたからだ。しかし現実はどうだ?グイード・ミスタと新入り、ジョルノ・ジョバァーナ。ホワイト・アルバムが奴らの能力に劣るところは一つとしてなかったはずだ。しかしギアッチョは敗北した。何故か。 「答えは簡単だ・・・」 あなどっていたからだ。奴らを・・・そして世界そのものを。同じ「覚悟」をしているように見えても、結局ギアッチョは心のどこかで己の勝利を確信していたのだ。 「もう二度と・・・ブザマな思い上がりはしねェェーーッ」 皮肉にも―彼は死んでから成長した。 ギアッチョの話にルイズは聞き入っているようだった。自室に戻るなりルイズはギアッチョにあれやこれやと質問を投げかけたのだ。ギアッチョは「色々と聞きてーのはこっちのほうだっつーんだよォォーッ」と言いたかったが、こんなガキにいちいち目くじら立てることもないと思いなおし、とりあえずは質問に答えることにした。キレてさえいなければ常識的な判断も出来る男である。 「・・・それで、あなたは情報を奪おうとして・・・逆に殺されたのね」 自分が殺されたシーンをわざわざ反芻されるのは勿論気分のいいものではなかったが、 自分への戒めだと思い文句を言うのはやめた。それにいろんなことに意識が行っていて 気付かなかったが、よく考えればこいつは自分の命の恩人なのだ。少しぐらい不快に なったからといってすぐにキレるのは礼節に欠ける行為だとギアッチョは思った。無論 我慢の限界が来れば1・2発ブン殴るのに躊躇はないが。 「はぁ・・・まさか別の世界から・・・しかも殺し屋を召喚しちゃうなんてね・・・」 最初は別の世界の存在を疑っていたルイズだが、話を聞き終わる頃にはもう すっかり信じていた。何故って自動車だとかDISCだとか常人の頭で創作出来る話じゃ ないと思ったからだ。実際原理を聞いた今でもさっぱり理解が出来ない。 「気に食わない奴がいりゃあいつでも暗殺してやるぜ。「依頼」とあらばな・・・」 と、そこでハッとルイズは気付いた。 「ちょ、ちょっと待ちなさい いくら使い魔だからって人を殺せば罰されるのよ!」 「問題ねーだろォ~?この世界のことは全然しらねーが、例えば・・・『決闘』なんかで 死ぬならよォォ」 何故だか一瞬キザったらしいクラスメイトの顔が浮かんだが、ルイズはブンブンと 顔を振ってそれを打ち消した。 「そ、そうじゃなくて・・・ ああもう、言い方が悪かったわ 人なんか殺す必要はないし 殺しちゃダメだって言ってるのよ!」 「それは命令か?主としてのよォ」 「りっ・・・理解出来ないのなら命令するわ 殺人は許可しない!」 「なるほどな ここはオレのいたような世界とは違うってことか」 「・・・解ればいいのよ」 「だが断る」 「何ッ!?」 「極力ご期待に沿えるよう努力はするがよォォ~ 絶対殺さないなんて約束は出来ねーぜ 特に相手が下衆野郎の場合はな・・・」 殺し屋に下衆野郎と言われる人間ってどんなのよ、とルイズはツッこみたかったが、 こいつはどんなタイミングでブチ切れるか解らないので「お願いだから殺さないでよ・・・」 と音量3割減で言うにとどまった。 その後あらかたギアッチョにこの世界の事を伝え終わったので、ルイズはさっさと 寝ることにした。―なんだか今日はどっと疲れたわ・・・― しかしルイズがベッドに潜り込んだ時、「待ちな」というギアッチョの声が響いた。 「なっ、何よ」 もはや話しかけられただけで怯えるルイズである。 「肝心なことを訊くのを忘れてたぜ」 ギアッチョはそこで一呼吸置いてから、最後の質問をした。 「オレの世界によォォ・・・戻れる方法は―あるのか?」 暗がりでギアッチョの顔は分からなかったが、今までとはうってかわって沈んだ声 だったので―ルイズは事実を伝えるのをためらった。考えてみれば、人を殺すなどと いう己の人生が賭かった仕事をバカみたいに安い報酬でやらされていたのだ。 殺人などしたくなかった者も中にはいただろう―果たしてギアッチョがどうだったのか ・・・それは分からなかったが―なのに反逆という命がけの訴えに対してボスから もたらされたものは「死」だった。仲間が次々と死んでゆき、ギアッチョまで死んで しまった今、生き残っているのはリーダーのみ・・・或いは彼ももう死んでいるかも 知れない。ギアッチョからすれば自分が死んでしまったからといって諦めのつく 事であるはずがないだろう。今すぐにでもリーダーの元へ駆けつけたいはずだ。 「・・・・・・私は知らないわ だけどこの学院の図書室なら使い魔を送り返す方法が あるかも ・・・今度探してみるわ」 「・・・・・・そうか よろしく頼むぜ」 勘違いのようなものだとは言え自分を殺そうとした男だというのに、その言葉に ルイズの胸は奇妙に締め付けられた。 「・・・あなたのリーダー ボスを倒せてるといいわね・・・」 「・・・ああ」 そう呟くと、ルイズは罪悪感を振り払うかのように眼を閉じた。 前へ 戻る 次へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/354.html
空が青く、清く、何より広い。 無遠慮な壁に邪魔されることなく、どこまでも高く高く続いていく。 陽が暖かい。豊かな草原が風になびいて波を打っている。 潮代わりの草いきれが流れ、散っていく。 人間はこうした土地に、郷愁や温かみ、開放感に心地よさといった正の感覚を知るのだろう。 一般的なホモサピエンスとはかけ離れた存在である彼にも悪くない場所と思えた。 顎を引き、見渡し、頷く。やはり悪くない。 なぜここにいるのか、その原因は分からない。 ここが地球上のどこかも分からない。 何者かによるスタンド攻撃なのかも分からない。だが、それでも悪くはない。彼にとってはどうでもいい。 草の向こうに巨大な石造りの建物が見える。 テーマパークか。図書館、博物館、見たまま城。刑務所ということはなさそうだ。 退屈な環境ビデオのごとく、稀に見る良い環境だ。 周りを取り囲むは場所柄にそぐわない怪しげな集団だったが、それに怯え竦むことはなかった。 彼は無敵だった。文字通りの無敵だった。「敵」が「無」かった。 短くも長くもない生涯で恐怖を感じたことは一度としてない。 近しい者の死にも、それによって与えられるであろう己の死にも、 客観的な視点で俯瞰から眺め続けてきた。それは今現在も変わらない。 そこかしこから笑い声が漏れ聞こえた。聞き慣れた種類の笑い――これは嘲笑だ。 彼と同じく、集団に取り囲まれた一人の少女に対して斟酌無い嘲りが投げかけられている。 「使い魔」「失敗」「ゼロ」といった単語が四方から飛び交い、もしくは囁かれ、 愛らしい少女は白い頬を朱に染め、大きな瞳をさらに見開き、屈辱に肩を震わせていた。 意味の分からない単語も多かったが、そこにからかいの意思を感じ取ることはできた。 彼にとっては見慣れた光景だ。 何やら怒鳴り返しているところをみると、少女は侮辱に対し侮辱で返しているらしい。 やはり見慣れていた。 しかし集団ということを抜きにしても相手方の優位は小揺るぎもしないらしく、 少女の怒鳴り声は集団の上を空しく通り過ぎていくだけだ。 ここまでくると、もはや見飽きている感がある。 少女を含め、皆が皆似通った格好をしていた。 安物囚人服ではない。かなり上等な……学生服だろうか。 ただ一人の年長者である禿げかけた中年男性は、 ものものしい木の杖に前時代的な黒いローブを纏い、 まるでおとぎ話にでも登場する魔法使いのようだった。 眼と耳から手に入った情報を照合し、状況を読み取り、ここで彼は合点がいった。 なるほど、見飽きた光景だったわけだ。 ここはいわゆる新興宗教で、彼らはその少年信徒といったところか。 目の前の少女は、儀式か何かに失敗して笑われているらしい。 信仰をささやかな心の拠り所にするのは大いに結構。 だが、宗教そのものを心の全てにしてしまっては本末転倒だ。 かつて大切にしていたはずの人間関係は磨耗し、やがて消えてなくなる。 胴欲かつ青天井のお布施乞食に吸い上げられて金が無くなり、 信じる物以外の全てを捨てて時間も失い、教団の意向次第で唯一無二の生命さえ奪われる。 そこまでして尚、誰から感謝されるということもなく、教祖は笑い、妄執を捨てず、 誰のおかげでもない、自分が偉大だからこの世は動いているとうそぶき、ふんぞり返る。 何もいいことはない。幸せを掴むためにはもっと他にすべきことがある。 といった意のことをわめきたてたが、彼の声はあえなく無視された。 ためになる助言に聞く耳を持たないとは狂信者にありがちなことだが、 聞こえないふりにしては出来過ぎている。 目前まで全力移動してから緊急停止などといったことを試してみるが、それもまた無視された。 喋り過ぎだと叱責されたこともある声を張り上げ、周囲を旋回してみるが、 彼に注意を払うものは、少女を含めて一人としていない。 彼を見ることができる才能の持ち主はこの場にいないようだ。困ったことになった。 少女は人垣に怒鳴り返すのをやめ、今度は中年男性に食ってかかっていた。 桃色がかった柔らかな金髪が持つ印象に反し、何かと攻撃的に生きている。 そのなりふり構わぬ姿勢は周囲のさらなる失笑を買い、 それにより少女はますます必死になっていった。 中年男性はその他野次馬連中とは違い、それなりに同情的であるらしい。 チャンスは一度ではない。二度でも三度でもない。 五度でも六度でも成功するまでやればいい、と慰めともつかない慰めをかけ、 とりあえず授業を終了する旨を宣言した。 これは単なる儀式ではなく、授業の一環であったようだ。つまり宗教学校ということか。 彼にもいまいち得心がいかなかったが、それどころではないことが起きたため、 疑問は彼方へ吹き飛んだ。 中年男性――年齢や立ち振る舞いからいっておそらくは教師――の号令一下、 少年達――ということは生徒だろう――は宙に浮いた。そう、生身の人間が宙に浮いた。 大きな口をさらに大きく開け、半ば呆然と彼が見送る中、ある者は黙ったまま、 ある者は友人と談笑し、ある者は残った少女をからかいながら、石造りの建物に向かって飛んでいく。 ワイヤーもクレーンもタネもトリックもない。 自分達が仕出かした奇跡を特別視する様子もない。 ごく自然な、当たり前の、家常飯事、日常所作、息を吸って吐くのと同じように、空を飛んでいく。 あとには大口を開いて見送る彼と、笑いものになっていた少女が残された。 少女は遠ざかる背中の一群を睨み、ふと目を逸らし、だがもう一度睨みつけ、 今度は目を伏せ、ため息とともにもう一度目をやった。 今度は睨みつけてはいなかった。 空飛ぶ旧友達の最後の一人までが建物の中に納まるまで目を離さず、 自分以外の動くものが見えなくなってからようやく動き始めた。 右手を開き、閉じ、開き、閉じ、開き、じっと見る。 再び出かけたため息を噛み殺すとともに奥歯を噛み締め、 空を飛ばず、右足と左足を交互に動かし、確かな足取りで前へ進む。 「あ、チョット待ちナー」 我に返り、彼は制止しようとしたが無視された。やはり聞こえていない。 「待てっつてンのにヨーッ。ドーなっても知らねーゾ」 声は届かず、物理的に干渉する手段を持たない以上、黙って見送るしかなかった。 少女は一歩、二歩、三歩進んだところで「凶」を踏み、 そこから四歩、五歩、六歩、七歩いったところで石につまずき前へのめった。 両手と膝をつき、ギリギリで顔面による着地は防いだが、 どうやら膝をついたところに石が顔を出していたらしい。 「アーア……やっちまっタ」 不意の痛みに涙を浮かべ、その一滴を拭うために顔へ手を伸ばし、 頬に掌が触れたところでようやく気がついた。が、すでに時遅し。 「マ、コレでウンがついたってトコジャネーノ?」 愛らしい容姿に似つかわしくない、怒声とも悲鳴ともつかない叫び声をあげたが聞く者はいない。 少女が八つ当たりをしたくても相手はいない。 怒りと苛立ちを押し殺し、ハンカチでこすり、頬と掌に付着した獣糞を拭うのがせいぜいだ。 大変に気の毒だが、彼は同情できるだけの心的余裕を持たなかった。 少女の叫びや八つ当たりと同様に、彼の忠告を聞く者もいないのだから。 これは存在意義にもかかわる重要な問題だ。 去り行く少女を横目に、周囲を見渡す。辺りには何も無い。 草、草、草、草、そして石造りの建物があるだけだ。 少女――ゼロのルイズと呼ばれていた――に目を移し、そのまま止めた。 少し悩んだフリをして、ドラゴンズ・ドリームはルイズの後を追いかける。 龍の夢は未だ覚めず。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/670.html
武器屋に入っていくルイズ達を、キュルケ一行は影から観察していた。 「武器屋・・・?何しに行くのよあの子達」 「そりゃあ武器屋なんだから武器を買うんだろう?」 「普通はそうでしょうけど ルイズはメイジじゃない」 キュルケとギーシュがひそひそと話をしていると、 「ギアッチョ」 本を読みながら短く答えるタバサ。その言葉にキュルケが納得している横で、ギーシュはビクンと震えている。 それに気付いたキュルケが、 「ギアッチョ」 と呟くと、ギーシュは小さく「ひぃっ」と声を上げて縮み上がった。 「タバサ・・・コレどーにかならない?」 呆れた声でタバサに助力を求めるキュルケに、 「無理」 少女は簡潔かつ明瞭な答えを返した。 絹を引き裂くような悲鳴が聞こえたのはその時である。 ドグシャアァッ!だのドグチア!だのメメタァ!!だの何やら不穏な物音と共に、 「痛いって痛ギャーーーーーーーーッ!!」という大声が響いた。 音の発信源である武器屋にキュルケ達が眼を向ける。悲鳴と物音はなおも続き、 「ちょ、待って待って痛いから!ホント痛いからコレ!ね! 一旦落ち着こう!ってちょっとやめェーーーーーーーッ!!」 というどう聞いても被害者のものと思われる声に 「逃げてー!デル公逃げてーー!!」 という野太い声が重なり、「剣が一人で逃げられるかボケェ!!ってイヤァァァーー!!」 律儀にツッこみを返す先ほどの声、そしてその後に 「ちょ、ちょっと!何やってるのよギアッチョ!!やめなさいってば!!」 と何かを制止する少女の声が聞こえ、キュルケ達の99%の予想は100%の確信へと昇華した。 「・・・あの使い魔もなんとかならないかしらね・・・」 口の端を引きつらせるキュルケに、 「絶対無理」 簡潔な絶望を以って返答するタバサだった。 ちなみにギーシュは、あっけなくその意識を手放していた。 物音が聞こえなくなって数分、ルイズとギアッチョが武器屋から出てきた。 ギアッチョの手には古びた剣が鞘ごと鷲掴みにされている。 店主と思われる男が顔を出すと、 「生きろデル公ーーー!!」 と叫んでいた。 「デル公?」 誰の事だろう。キュルケがそう思っていると、ギアッチョの持っている剣がひとりでに鞘から顔――のように見えなくもない鍔――部分を露出させ、 「離せ!いや、離してくださいィィィ」とか「ゴミ山でもいいから俺を捨ててくれェェェ!」とかわめいている。 「インテリジェンス・ソードじゃない・・・また変なもの買ったわねルイズも」 当のルイズは、全力で魔剣から目をそむけていた。合掌。 「なぁ!ちょっと考え直そうぜマジに!剣買うなら安くてつえーの紹介すっからさ! 別に俺である必要はないわけじゃん?こんなオンボロよりもっと若くてイキのいいのが沢山あんだって!な!」 なおもわめき続けるインテリジェンス・ソードにギアッチョは目を落として言う。 「なるほど一理あるな・・・」 「だろ!?だったら早く俺を返品しt」 「でも断る」 「何ィィ!?」 ギアッチョは喋る剣を胸の高さに持ち上げて続けた。 「てめーはどうやらなかなか頑丈みてーだからよォォ~~ 武器兼ストレス発散装置として活用させてもらうとするぜ」 一片の光明も見出せないその返答に、デル公の微かな希望は崩れ去った。 「・・・ところでよォォ~~」 ギアッチョが急に声を大きくする。 「今日は大所帯じゃあねーか え?キュルケ いつまでコソコソ覗いてんだ?」 その言葉にキュルケの心臓が跳ね上がる。気付いていた!?いつから!? 「最初から」 と呟くように答えて、タバサは物陰から抜け出した。 「気付いてて放置してたってわけ・・・?これじゃまるでピエロじゃない」 こめかみを押さえて一つ溜息をつくと、未だ覚醒しないギーシュの首根っこを引っつかんで、キュルケは青髪の少女に続いた。 「キュ、キュルケ!?・・・に、ええと・・・タバサ・・・とギーシュまで どうして!?」 いきなり現れた三人にルイズは面食らっている。まさか見つかるとは思っていなかったキュルケは、そのストレートな質問に 「ど、どうしてって・・・えーと・・・」 しどろもどろで言い訳を考える。そして数瞬の沈黙の後、 「・・・そっ、そうよ!あなたが使い魔に振り回される所を見物しに来たのよ!」 と言い放った。 「な、なんですって~!?いくら暇だからって随分悪趣味なのねあんたって!!」 売り言葉に買い言葉で喧嘩を始める二人をやれやれといった眼で眺めるタバサがふとギアッチョに眼を向けると、同じような眼でルイズ達を見ていた彼と眼が合った。 「本題」 ギアッチョがキレる前にさっさと片付けようと思ったタバサは、そう言ってから身の丈よりも長い杖でポコンとギーシュの頭を叩く。 「あいたッ!もっと優しく起こし・・・ん?」 その衝撃で眼を覚ましたギーシュは、キョロキョロと辺りを見回し。汚い路地裏に倒れている自分を見、そしてその自分を眺めているギアッチョを見て―― 魔剣もかくやと言わんばかりの悲鳴を上げた。 「「ちょっと、うるさいわよギーシュッ!!」」 ルイズとキュルケの見事なハモりに、「ヒィッ、すいません!」と思わず直立しようとしてしまったギーシュだったが、松葉杖が手元になかったせいで見事にスッ転んだ。 見かねたタバサが、物陰に捨て置かれていたそれをレビテーションで持ってくる。 「あ、ああすまない・・・」 タバサに礼を言って松葉杖をつかむと、ギーシュは今度こそ立ち上がり、 バッチィィィン!! 自分の顔を思いっきりひっぱたいた。その音に驚いたルイズ達が喧嘩をやめてギーシュを見る。 「・・・よ、よし 気合は入った・・・ッ」 強く叩きすぎたのか、フラつきながらもギーシュはルイズへと歩き出す。 「な、何・・・?私?何の用・・・?」 状況を把握出来ていないルイズの前に立ち、ギーシュはおもむろに松葉杖を投げ捨てた。 そして支えを失ってバランスを崩しながらも彼は地面に膝をつき―― 「ラ・ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに、グラモン家が四男ギーシュ・ド・グラモンが謝罪申し上げる!!」 ガツン!!と石畳に頭を打ちつける。 「申し訳ないッ!!僕が悪かった・・・今までの侮辱、どうか許して欲しい!!」 ルイズ達はあっけにとられていた。キュルケやタバサも、ギーシュはどうせギアッチョにビビって適当な礼もそこそこに逃げ戻ってくるだろうと思っていたのだ。 彼に家名と誇りをかけた謝罪をする決意があったなどと、夢にも思わなかった。 「ちょ、ちょっとギーシュ!何やってるのよ・・・もういいわ!顔を上げて!」 ルイズが慌ててしゃがみこむ。 「許してくれるかい・・・ルイズ」 自分を立ち上がらせようとするルイズに、ギーシュは頭を地面につけたまま問う。 「・・・ええ ヴァリエールの名にかけて」 「・・・・・・ありがとう」 そこまで言って、ギーシュはようやく血に塗れた顔を上げた。ルイズに肩を借りて 立ち上がると、ギーシュはギアッチョに向き直る。相変わらず膝は笑っているが、 その眼に迷いはなかった。 「・・・ギ・・・・・・ギアッチョ 僕は君にも謝罪しなければならない」 しかし口を開きかけたギーシュを、 「待ちな」 ギアッチョは押しとどめる。 「やれやれ・・・どーやらよォォ~~・・・ ケジメをつける『覚悟』だけはあるらしいな」 「ギアッチョ・・・ 謝らせてくれ、僕は」 というギーシュの言葉に被せてギアッチョは続ける。 「別にこいつの従者になったつもりはねーが・・・元はといえばオレがルイズの 使い魔として受けた決闘だ てめーはいけすかねぇ貴族のマンモーニだが・・・ 貴族として貴族に謝ったってんならよォォーー 平民に謝罪なんかするんじゃあ ねえぜ」 意外なギアッチョの言葉に、ギーシュは二の句が継げなかった。 「その代わり、だ 平民は平民らしくよォォーー てめーのツラを一発ブン殴って 終わりにさせてもらうぜ」 「・・・ギアッチョ・・・」 ルイズもギーシュも、この場の誰もが驚いていた。しかしギーシュはすぐに理解した。 まだよく分からないが、きっとこれが『覚悟』なのだと。貴族としての『覚悟』に、彼は 平民として応えてくれているのだと。 「・・・分かった・・・来たまえ、ギアッチョ!」 ギーシュはにこやかにそう答え、 トリステインの青空に、派手な音が鳴り響いた。 ギーシュは、学院へ向かって飛ぶシルフィードの背中で、風竜の主に問いかけた。 「・・・タバサ 『覚悟』って一体何なんだろう」 タバサは本からちらりと眼を外すと、 「意志」 一言短く、しかしはっきりと答えた。それが何を指すのか、ギーシュにはやはりまだ 分からなかったが――彼は今、不思議とすっきりした気分だった。 ==To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1263.html
「機神飛翔デモンベイン」の二闘流(トゥーソード/トゥーガン) ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-01 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-02 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-03 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-04 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-05 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-06 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-07 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-08 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-09 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-10 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-11 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-12 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-13 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-14 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-15 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-16 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-17 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-18 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-19 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-20 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-21 ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-22
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/791.html
なかなか戻ってこない二人に、ルイズ達は焦りを感じていた。 本当にここで待っていていいのか? 彼らの後を追わなくていいのだろうか? 口には出さなくとも、彼女達の表情が如実にその心境を表していた。 シルフィードで上空から様子を見るか? とタバサは考えたが、恐らく木々に阻まれて何も見えないだろうと思い直し、その案を却下した。 そんな風に皆が皆ギアッチョ達の方に気をとられていた為――彼女達の背後で聞こえていた、ズズズと何かを引きずるような集まって行くような音を意識する者はいなかった。 最初に気付いたのはタバサである。経験から来る何かがゾクリと警鐘を鳴らしたのを感じて、彼女は後ろを振り向いた。 そこにあったのは、もはや八割方完成しつつあるあの大ゴーレムであった。 そしてタバサより遅れること数瞬、同じく振り返ったキュルケが驚愕の声を上げ、その声でルイズがようやく後ろを振り向いた時には、ゴーレムの形成部位はもはや一割以下を残すのみだった。 「あっははははははははは!!」 ついに完成したゴーレムの肩で高笑いをあげる女性に、三人の眼は釘付けになる。 ミス・ロングビルと名乗っていたその女性は、今や正体を隠そうともせずに彼女達を見下ろしていた。 「ふふふ・・・いいわねぇその表情 伝来の至宝を盗まれた貴族みたいないい顔してるわよ三人とも!」 心底楽しそうに言って、土くれのフーケはまた高笑いをする。 「騙したのね!!」 ルイズがキッとフーケを睨む。しかしフーケはニヤニヤと笑うのをやめない。 「ええ騙したわ」と愉快そうに返答し、なおも続けて挑発する。 「このままあんた達を潰しちゃっても面白くないわねぇ そうだ、先に一発攻撃させてあげるわ ほら、やってみなさいよ ん?」 完全にこちらを侮って挑発を繰り返すフーケに、ギアッチョではないがルイズはもうブチキレ寸前だった。しかしキュルケはそんなルイズを片手で制して、 「それ、嘘じゃありませんよね?ミス・ロングビル・・・いや、土くれのフーケ」 微笑を浮かべながら問う。 「失礼ね 私が約束を破るように見えるかしら?」 どの口がそれを言うかと思ったルイズだったが、キュルケはそ知らぬ顔で話を続けているので唇を噛んで耐えた。 「それじゃあ、お言葉に甘えさえていただきますわ」 ニッと笑ってそう言うと、キュルケはタバサに何事か声をかける。それを受けてタバサが手早く抱えていた箱を開け、キュルケに破壊の杖を手渡した。 「あっ!」 とルイズが驚くのと、 「な・・・!?」 フーケが驚愕するのは同時だった。キュルケはフーケが約束を反故にしないうちに詠唱を始める。 唱える魔法は炎と炎。炎の二乗で生成する、フレイム・ボールだった。 破壊の杖がどんなものかは知らないが、この魔法に破壊力がプラスされればフーケのゴーレムとてただでは済まないはずッ! 一瞬のうちにそう判断したキュルケは、破壊の杖をゴーレムに向け、魔法を発動させる! 「食らいなさい!フレイム・ボールッ!!」 「・・・・・・」 シン、と場が静まり返る。破壊の杖からは、炎の弾どころか火の粉一つ発生しなかった。 「あ・・・あれ?なんで?どうして?」 キュルケは焦って杖を上にしたり下にしたりしている。両脇の二人も、何故魔法が発動しないのか全く理解出来ないようだ。 フーケは怯えていた・・・ような演技からさっきまでの凶相に戻り、 「期待外れだわクソガキ共」 と吐き捨てた。 「なんですって・・・!?」 キュルケ達がゴーレムを見上げる。 「その杖ね、使い方が分からなかったのよ どうやら普通に杖として使うことが出来ないみたいでね で、メイジを呼び寄せて・・・使い方を盗んで殺すつもりだったんだけど やっぱダメねぇ」 「ガキなんかに期待したわたしがバカだったわ」と言って、フーケは今度こそ慈悲のかけらもない眼で3人を見下ろした。そして。 「じゃ、死になさい」 言うや否やゴーレムの鉄腕を振り下ろす! 「股下!」 タバサがとっさに叫んで駆け出す。キュルケとルイズがそれに続き、石人形の初撃は虚しく宙を打った。 柱のようにそびえる両の足の間をくぐると、後方でシルフィードが待機していた。 タバサはあの状況に流されることなく、使い魔に冷静な指示を送っていたらしい。 ルイズは改めて、このタバサという少女の実力を痛感した。 先頭を走っていたタバサが飛び乗り、それとほぼ同時にキュルケが飛び乗る。 「ルイズ」 タバサが最後尾だったルイズを促した。しかし―― ピタッ、と。ルイズは止まった。キッと後ろを振り向き、杖を握る。 「ちょ、ちょっとルイズ!何してるのよ!!」 キュルケが慌てて声をかけた。しかしルイズは振り返ることなく言う。 「あいつを倒すのよ!ゴーレムには歯が立たなくても フーケに直接魔法を命中させれば倒せるわ!」 キュルケは愕然とした。本気だこのバカは。 「何を言ってるのよルイズッ!!あの巨人の攻撃をかいくぐってフーケ本体に魔法を命中させるだなんて、そんな芸当私だって難しいわよ!! ここで逃げても誰もあなたをバカにしたりはしないわ!意地を張る必要はないのよ!ねえ!!早く乗りなさいルイズ!!頼むから早く乗ってッ!!」 キュルケは必死で訴える。ゴーレムはどんどんこちらに迫って来ている。 ルイズはカタカタと震えているが、それでも振り返らない。 「ルイズ!!」 タバサが珍しく語気を荒げる。ゴーレムはついにルイズを射程距離に捉えた。 「行って!」 ルイズが怒鳴る。キュルケも怒鳴る。タバサまで怒鳴った。そんな彼女らの状況など気にも留めず、ゴーレムが無慈悲に拳を振り下ろす! 「行きなさいよ!!」 と最後に大きく叫んで、ルイズは駆け出した。先ほどのタバサと同じ戦法で股の下をくぐる。タバサは一瞬苦虫を噛み潰したような顔を見せると、 「行って!」 シルフィードに指令を下す。間一髪、風竜はゴーレムの一撃を避けて飛び立った。 ルイズはゴーレムから距離を取って走る。射程範囲の外にいるうちに作戦を練ることにした。 ――プライドを、捨てる ルイズの考えた作戦は、それだけだった。長い詠唱で呪文を発動させても爆発するだけ。 何をやろうが爆発するなら、最短のコモン・マジックで魔法を乱発する! この速度の速さだけが、自分がフーケに勝っているものであるとルイズは理解していた。 今大事なのはプライドじゃない。そんなものを失うより、ギアッチョを失うほうがよっぽど辛い。よっぽど怖い。よっぽど、悲しい。 ルイズはごくりと唾を嚥下して、ふるふると首を振った。そうだ、それに比べればゴーレムなんて全然怖くない。バッと顔を上げると、ルイズは杖を握りしめてゴーレムへと駆け出した! 「一番最初に死にたいのはあんたかい!」 フーケの指示で、ゴーレムは三度腕を振り下ろす。ルイズはまたも足をくぐり抜けてそれを回避し、そして振り向きざま魔法を放った! 「ロック!」 ドウン!とゴーレムの背中で空気が爆ぜる。失敗だ。ルイズはすぐに気持ちを切り替え、振り向きつつあるゴーレムの足を前面からくぐり、ゴーレムの背面向けてもう一度ロックを唱えた。 今度はゴーレムの腰で爆発が起きる。失敗。 ――落ち着け・・・冷静に照準を合わせるのよルイズ・・・! うるさいぐらいに音を響かせる心臓を片手で抑えて、ルイズはまた足をくぐりに走る。くぐる。振り向く。放つ。失敗。くぐる。振り向く。放つ。失敗。くぐる。 振り向く。放つ。失敗―― 「ちょろちょろとしつこい鼠だね!いつまでも同じ手が通用すると思うんじゃあないよ!」 しびれを切らしたフーケが、続けて下をくぐろうとしたルイズにヒザを落とす! 「きゃああっ!!」 直撃コースだった。無駄だと知りつつ、ルイズは頭を庇う。 ドッグォオン!! ・・・足が落ちてこない。何故?ルイズがゴーレムを見上げると、その頭からは白煙が上がっていた。 「フレイム・ボールのお味はいかがかしら!?」 ウインドドラゴンから身を乗り出して、キュルケが杖を構えている。 「もうちょっと濃いほうが好みだわねッ!」 フーケが叫ぶと、全然堪えた様子にないゴーレムがシルフィード目掛けて腕を繰り出す!器用に避け続ける風竜の上で、 「出来る・・・ことを するッ!!」 ギアッチョに言われたことを反芻し、2発、3発と火弾を放つ。その言葉にタバサもコクリと頷き、得意技のウィンディ・アイシクルを撃ち放った。 空から降り注ぐ炎と氷の雨はゴーレムの体にこそ穴を穿たないが、 その肩に立っているフーケは生身なのである。ゴーレムは両腕でフーケを庇い、その場に棒立ちになった! 一番危険なポジションであるゴーレムの真正面にいたルイズだが、 ――チャンスは今しかないわッ!! 素早く深呼吸をして、すっとフーケを見上げる。グッと杖を突き出して、全精神を集中させる。冷静に、照準を合わせる。わずか眼をつむり――開く。 「・・・・・・ロック!!」 ドッガァァアアァッ!!! 「命中した・・・!!」 爆炎は、フーケの立っている位置、そのド真ん中で炸裂した。 「・・・やった・・・!わたしでも勝てた・・・ッ!!」 ルイズは嬉しさで泣き出しそうだった。ゼロのルイズが、土くれのフーケに打ち勝った・・・! しかし――煙が晴れるにつれ、ルイズの感動は徐々に絶望へとその色を変えた。 煙が晴れたそこでは―― 岩で作った盾の影で、フーケが微笑みながらルイズを見下ろしていた。 「・・・そんな・・・」 ルイズが後じさる。 「あんたの速射に対して・・・いつまでも無策でいるわけがないでしょう?」 フーケが汗を垂らしながら笑う。ギアッチョ達に差し向けたゴーレムとこっちのゴーレム、そしてこの岩の盾で、フーケの力はかなり消耗されていた。 「一旦身を潜めるしかないかねぇ・・・顔を見られちまったのは残念だけど」 ふぅ、と溜息を一つついて、 「だが、こいつをあんたに食らわせる余力ぐらいは残ってるよッ!!」 フーケはギン!とルイズを睨んだ。 バゴァッ!! ゴーレムの胸から岩塊が一つ、眼にも留まらぬ速さで飛来し―― ルイズの左足がはじけた。 ギアッチョとギーシュは、木々の隙間にフーケの大ゴーレムの姿を認めた。 「・・・ヤ ヤバいよ、ギアッチョ!!」 フーケの騎士達から逃げ回りながら、ギーシュが叫ぶ。 「・・・くッ、こいつら僕のワルキューレより強い・・・!」 フーケのゴーレムに、ワルキューレは一体また一体と破壊されていた。 「やかましいぜマンモーニ!無駄口叩いても始まらねぇッ!!」 ギアッチョはその逆、一体、次、その次とゴーレムの首を刎ね飛ばしている。 ギーシュのワルキューレは残り五体。それに対して、フーケのゴーレムは同じ五体を数える。 「もう少し逃げ回ってな・・・ とっととカタをつけるッ!!」 袈裟斬りに振り下ろされた剣をかわし、そのままぐるりと回りこむようにしてゴーレムの後ろに回る。 一瞬の動きで腕を引き、ゴーレムの首を斬り飛ばした。 逃げ惑いながらもギアッチョの腕前に感心していたギーシュだったが、 「あ・・・ッ!?」 あることに気付き、心臓が跳ね上がった。 「ギッ・・・、ギアッチョぉおおぉ!!」 「やかましいって言ったろーがマンモーニ!!」 「それどころじゃあないッ!見るんだシルフィードを!!『ルイズがどこにも乗っていない』!!」 「何・・・だとォオォ!?」 ギアッチョはバッと飛び下がると、上空に視線を移した。確かに、ルイズの姿はどこにも見当たらない。 「――あのバカ野郎 まさか地上で・・・」 他の可能性を考える。見えてないだけでは?いや、それはない。 風竜がどんな体勢になってもルイズの姿は見当たらない。一人でこっちに向かっている? これもないだろう。罠が張られているかもしれないところにむざむざルイズを行かせるようなことをする奴らじゃあないはずだ。 妙な意地を張って地上で戦っている?これが一番ありえそうだ。ルイズはプライドが高い。 己の貴族としてのプライドの為なら、命を捨てる覚悟で戦いに挑むこともあるかもしれない。 そして最後の可能性。ルイズは、もう既に―― ギアッチョはギリっと歯を噛んだ。考えている場合ではない。自分がすべき事は一秒でも早くルイズの元へ駆けつけることだ。 ――ホワイト・アルバムを全開にするか? ギアッチョはこの場を一気に打開する方法を考える。 ――いや、それはマズい オレのホワイト・アルバムは刀やスーツを作る精密さはあるが、敵だけを選んで凍らせるといった器用さはない・・・ッ ギアッチョの顔が苦悩に歪む。そんなギアッチョを見て、ギーシュは一瞬・・・ほんの一瞬考え込み、 そして。 「・・・う・・・うぉぉおおおぉッ!!ワルキューレッ!!僕を軸にッ!矢じりのように並べェェェッ!!」 ワルキューレに号令を発した!ギアッチョはイラついた顔でギーシュを見る。 「何やってるんだてめー・・・黙って逃げてろってのがわかんねーのか!!」 しかしギーシュは壮絶な意思を持った瞳でギアッチョを睨み返す! 「行けギアッチョ!!ここは僕が食い止めるッ!!」 「正気で言ってんのかマンモーニッ!!てめーじゃ勝てねえのは分かってるだろうがッ!!」 「いいから行くんだッ!!」 ギーシュは怒鳴る。 「ここだ・・・!ここで、『覚悟』を決めるッ!!僕はここで、『覚悟』を身につけるッ!!」 ギアッチョはギーシュを見た。ギーシュの眼に、迷いや怯えはない。侮りも思い込みも、恐怖も後悔もない。ギーシュは今、ここで覚悟を知ってやると『覚悟』していた。 「・・・『覚悟』とは 犠牲の心じゃあねえッ! それだけは覚えておけッ!!」 自分を殺した男の言った言葉を、ギアッチョは今ギーシュに伝える。 そして言うが早いか、ギアッチョは後ろも見ずに駆け出していった。 ギーシュは彼に満足げに眼を遣ると、すぐにフーケのゴーレムに眼を戻した。 「いくよワルキューレ・・・『覚悟』を決めろッ!!」 ギーシュはそう叫ぶと、心の中でワルキューレに指示を出す。矢じりの隊形のまま、ワルキューレは右端のゴーレムに突っ込んだ! 先頭のワルキューレの斬撃をかわし、ゴーレムがワルキューレを真っ二つに切り裂く。 しかしギーシュはそれを見越していた。先頭のワルキューレがやられる前、既にその右後ろに陣取った二体目が、先頭のワルキューレの首に向かって剣を振るいはじめていた! 唐竹割りにされた自らのワルキューレの首を更に自分のワルキューレで薙ぎ、そのままフーケのゴーレムの首も刎ね飛ばす! 間髪いれず左側から襲ってくる二体目のゴーレムに、ギーシュの左前に構えていたワルキューレが突きを受けて倒れ――その影から、ワルキューレの槍を拾ったギーシュがゴーレムの首を突き飛ばした! 「肉を斬らせて――骨を断つ・・・か」 ギーシュはようやく気付いた。自分が負けていたのは、力の差があったからだけではない。 朝、オスマン達の前で仲間に頼らないと誓ったにも関わらず、ギーシュは知らず知らずのうちにギアッチョにべったり頼っていた。 自分のワルキューレが倒れるところは見たくない。ある程度の安全圏からサポートしていれば、ギアッチョがケリをつけてくれる。 そんな甘っちょろい考えが、ワルキューレの動きを、攻撃を、判断を、ハンパに鈍らせていたからだ。 それが理解出来たならば、例え相手がトライアングルとはいえ、完全遠隔操作のゴーレムなどに負けるわけがないッ! ギーシュは片手に槍を構えて、高らかに宣言する。 「これで僕のワルキューレは三体・・・お前達は二体だッ!! 僕は逃げない・・・お前達を恐れない そして侮りもしない!! 我が名はギーシュ・ド・グラモン!我が友ルイズの為、そして我が道の師、ギアッチョの為ッ!!今この場で、お前達を斬り伏せることを『覚悟』するッ!!」 自分で槍を握ったことなどないにも関わらず――その姿は雄雄しく、そして気高かった。 ギアッチョは走る。走りながら、何故自分はここまで必死になっているのかと考えた。 たった数週間前に知り合ったばかりのガキのために、何故オレは血管がブチ切れそうな勢いで走っているんだろうか。 ギアッチョは考える。オレが生きていた頃なら、こんなことはありえない。 こんなどっちつかずで下手をすれば両方を失ってしまうような判断はしないはずだ。 ――いや。そうじゃない。生きていた時の判断とは、つまり暗殺者としての判断ということだ。 そういうことじゃない。ハルケギニアにいるオレは、トリステインにいるオレは暗殺者じゃあない。使い魔だ。 「使い魔のギアッチョさんよォォ・・・おめーは何故走ってるんだ・・・?」 解らなかった。あらゆる感情の摩滅した世界で生きてきたギアッチョには、自分の心など解るはずもなかった。だが、理由は解らなくても一つだけ 理解していることがある。 あいつを死なせたくない、自分はそう思っている。それだけは解った。だから。それだけをともし火に、ギアッチョは走る。 デルフリンガーもまた焦っていた。こんな嫌な予感は何年ぶりだろう。 守ると誓ったばかりなのに。ルイズを守ると約束したばかりなのに―― 今朝までロクに会話も交わしたことがなかった娘だった。だがそれがどうした?そんなことは関係ないしどうでもいい。 自分はルイズを守りたいと思った。だから誓った。ならば自分はデルフリンガーの名にかけて誓いを果たす。それだけだ。 ・・・なのにどうして自分には足がついていないのか。デルフが今日ほど己を呪った日はなかった。 雑草の生い茂る地面ではホワイト・アルバムでスケートなど出来ない。 鬼のような形相で森を駆け抜け、小屋を中心に広がる空き地が目前に迫ったその時、ギアッチョとデルフリンガーがそこに見たものは、 「――バカな・・・」 左の足首を吹っ飛ばされて地面に倒れるルイズと、それを今まさに踏み潰さんとする巨大な岩の足だった。 何もおかしいことはない。十分予想していた状況だった。しかしギアッチョはそう言わずにはおれなかった。 そしてそれは、デルフリンガーも同じことだった。 「・・・嘘だろ・・・」 ギアッチョは足を止めない。茂みを掻き分け、空地に飛び込み、ルイズに向かって走り続ける。しかしその頭は、悲しいほど冷静に状況を計算をしていた。 ルイズまでの距離、25メートル。到達所要時間、約3.4秒。 ゴーレムの右足がルイズを踏み潰すまでの時間、2秒未満。 絶望だった。 「うおおぉおあああああああああああああ!!!!」 ギアッチョが絶叫する。いくら叫んだところで、いくら怒ったところで、もう辿り着けない。間に合わない。ルイズは――救えない。 何が最強のスタンドだ。絶対零度は全てを止める?じゃあやってみろよッ!!今ここで!!この距離で!!2秒以内にあいつを止めてみろよッ!! 怒りと無力さと絶望に駆られて、ギアッチョはただ叫ぶことしか出来なかった。 ――たとえ天が落ちてこようが・・・ デルフリンガーもまた、絶望していた。今朝誓ったことを、5時間も経たないうちに破ってしまう。 そしてその場を自分はただ眺めているだけ ――これほど滑稽なことがあるだろうか?デルフリンガーはただの剣だ。目の前で何が起ころうと、彼は常にただ見ていることしか、 この身が、砕け散ろうが―― 「――あ、ああ・・・ああぁああぁあああああああ!!!」 稲妻に打たれたように、デルフリンガーは思い出した。こいつは俺の『使い手』だと。そして、それだけで十分だった。 「ダンナッ!!俺を抜けェェェ!!!」 喋る魔剣は絶叫する。 「イカレてんのかてめーは・・・ッ!!少し黙って」 「いいから早く抜けェエェェェーーーーーーーーッ!!!!!」 鬼神の如きデルフリンガーの絶叫にギアッチョは尋常ではない『意思』を見出し――柄に手をかけ、一気に引き抜き。 ドンッ!!! その瞬間、ギアッチョは消えた。いや、正しくは眼にも留まらぬ速さに『加速』した。 ギアッチョを見ていたものがただ出来ることは、一定の間隔で土煙を巻き上げて弾ける地面で彼の向かった方向を把握することだけだった。 ギアッチョとデルフリンガーは一瞬にして距離を詰め、ルイズを突き飛ばし、 ズン!! 彼女の身代わりになった。 今、何が起きた? 誰もが状況を上手く認識出来ず、場は沈黙に包まれた。 ルイズが助かり、ギアッチョが死んだ。最初にそれに気付いたのは、キュルケとタバサだった。 ゴーレムがその手でフーケを庇っている限り、彼女達にゴーレムを止める手段はなく ――ルイズが踏み潰されるその一瞬、キュルケ達に出来たことは彼女の名を叫ぶことだけだった。 しかし巨大な岩塊がルイズに打ち下ろされる寸前、誰かがその下に飛び込みルイズを弾き飛ばした。誰か?誰かって何だ。 ギアッチョ以外に誰がいるんだ。 キュルケは、そしてタバサはまさに茫然自失だった。死んだのはルイズではない。 得体の知れない平民の使い魔だ。ルイズは生きている・・・。喜ぶべきじゃないか。 頭ではそう思っているのに、キュルケは震えが止まらなかった。 隣のタバサはいつもと同じく何も喋りはしないが、その瞳は信じられないものを見たかのように見開かれていた。 次に事態を理解したのは土くれのフーケである。 無詠唱で魔法を使うメイジという一番の危険人物が死んだことに気付き、フーケはヨハネの首を貰い受けたサロメのように笑い狂った。 ちょこまかとうるさい落ちこぼれを殺して逃げるつもりが、死んだのは何をしでかすか解らない異端の平民だったのである。 信じられない幸運にフーケは狂喜した。 何かに突き飛ばされて呆然とへたり込んでいたルイズは、その哄笑で ようやく理解した。自分を突き飛ばしたギアッチョが、身代わりになって死んだ ということを。 「・・・・・・・・・・・・・・・嘘・・・・・・」 ルイズは長い時間をかけて、やっと一言言葉を吐き出した。 「嘘だよね・・・ギアッチョ・・・・・・」 ルイズの声は震えていた。ゴーレムのことなど完全に忘れてギアッチョの 『いた』場所へと歩き出そうとするが、立ち上がろうとした瞬間につんのめり 無様に倒れる。ルイズは自分の左足が吹っ飛ばされたことを思い出し、 だがそれでも一歩ずつ這って行く。ギアッチョがこんなことで死ぬわけない。 きっと生きている。すぐに足を壊して出てくる―― しかし少女の淡い期待は、地面に滲む鮮血によって脆くも打ち砕かれた。 ゴーレムの足に接していた場所から流れているそれは紛れも無く ギアッチョの血液であることを悟り、ルイズはその場に崩れ落ちた。 「返事してよ・・・・・・ねえ」 ルイズは消え入りそうな声で問いかける。 「生きてるんでしょ・・・悪い冗談はやめてよ・・・」 しかしギアッチョのいた場所からは何も返ってはこない。聞こえるのは、 壊れたように鳴り続けるフーケの笑い声だけだった。 「・・・そんな・・・・・・ギアッチョ・・・・・・・・・デルフ・・・」 自分が。自分が殺した。その事実に、ルイズは涙すら出なかった。 そろそろ殺すか、とフーケは思った。 今にも死にそうに打ちのめされているルイズを見て若干の憐憫が沸かないでもなかったが、無理やりバカ笑いをしてそれを打ち消した。 自分の正体を知った者を生かしておくわけにはいかない。 ルイズを殺し、こいつの左足を打ち抜いた岩塊で風竜の翼を貫く。 あとは二人を踏み潰すだけだ。 「悪いわねお嬢ちゃん・・・あの世で仲良くしなさいなッ!!」 グッ!! 「・・・・・・・・・?」 ルイズを蹴り飛ばそうとしたゴーレムの右足が、動かない。 いや、正確には――地面から離れない。 「・・・な・・・によ これ・・・・・・」 おのがゴーレムの足を見下ろして、フーケは戦慄する。ギアッチョを踏み潰した右足が、氷によって完全に地面に固定されていた。 そしてその氷の中から声が響く。彼女にとっては地獄の底から響く声、そして『彼女達』にとっては百年間も待ちわびていたように思える声だった。 「・・・・・・ギリギリだ・・・ ええ・・・?クソ・・・ ギリギリ・・・発動出来たぜ・・・」 その声にフーケの心臓は凍りつく! 「そして・・・発動しちまったからにはよォォォ~~~・・・・・・てめーは絶対に逃がさねェッ!!」 何をする気か知らないが・・・これはマズいッ!!そう思ったフーケだったが、ゴーレムの足は大地と同化しているかのように動かない。 そして―― 「ホワイト・アルバム・・・ジェントリー・ウィープスッ!!!」 ビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキビキィッ!!! 裏切り者を断罪する、氷結地獄コキュートス。まるでそこから響いてくるような声が、彼の姿無き半身を呼び起こす!岩人形の右足を覆う氷は電光石火の如く脛を、膝を、腰を駆け上り、右足から頭に至るまで、その全てが完全に凍りついた! 「なんなのよ・・・なんなのよこれェェェ!!」 無詠唱、という単語が彼女の脳裏によみがえった。彼女はうわごとのように繰り返す。 「こんなの・・・こんなの私達の魔法じゃない・・・!!」 しかしそんな彼女の怯えなど一顧だにすることなく、ギアッチョは無慈悲に宣言する。 「・・・ブチ・・・・・・割れな・・・・・・!!」 バガシャアアアアアァッ!! 千里に響く轟音と共に、ゴーレムの体が端から崩落を始める! 「ま・・・マズい・・・!!逃げないとッ!!」 フーケは慌ててレビテーションを唱えるが、その体は毫末も上昇することはなかった。 「な・・・なんで・・・・・・ハッ!?」 フーケはようやく気付いた。自分の足が、氷によって完全にゴーレムと固定されていることに。 そして彼女にもはや「火」を使う力は残っておらず―― 彼女は己のゴーレムの破片と共に、惨めに、そして無残に墜落した。 フーケの凍りついた両足は完全に割れて分断されていたが、レビテーションで逃げることも出来ないようにギアッチョはホワイト・アルバムで容赦なく地面と固定させた。もっとも、フーケはその時点で完全に意識を失っていたが。 とにかくそうしておいて、ギアッチョはルイズの元へ駆け寄る。 「ギアッチョ・・・!!」 ルイズはおのが使い魔の姿をはっきりと確認し、そこでようやく――そして どうしようもなく、ぼろぼろと涙をこぼした。ギアッチョはすたすたとルイズに近寄る。 言いたいことは色々あるが、とにかく一発ブン殴ってやるつもりで手を上げた。が。 がばっ!と血まみれの自分に抱きついてただごめんなさいと繰り返す少女をブン殴ることは、流石のギアッチョにも出来なかった。 振り上げた手をゆっくりと下ろすと、彼はとりあえず溜息をついた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2850.html
前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ ももえが言っていた悪魔は数ヶ月前からトリステイン中に繁殖していた。 トリステイン中の貴族を恐怖に陥れた盗賊である『土くれ』のフーケもその悪魔にとり憑かれた一人である。 当初は貴族の宝物を奪うだけのただのコソ泥だった彼女が、たまたま日蝕がおこったその日に突然覚醒した。 「ああぁああああああああああああ!!!!!!!」 くぎみーがセッ○スと言うその日まで 「ゼロの使い魔死神友情フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」 数日後、謹慎が解けて授業に出ることを許されたルイズは2年生になって初めて授業を受けた。 一言で言えば『悲惨』だった。どこがどう悲惨だったのかはルイズ自身思い出したくなかった。 「ねえねえさっきの爆発ってどうやってやったの?」 「うっさいわね! だから知らないって言ってるでしょうが!」 ももえは下級生であったケティの制服を着ていた。そして香水の効果からか誰もルイズの元によって来る人が居なかった。 「臭いからだ。」 「だから臭くないってば!」 そんなやりとりをしているとキュルケがルイズに声をかけてきた。 「ねえ、突然だけど私と勝負してみない?」 「あ、ごめん 私、パス」 ルイズは鞄を持ってさっさと教室から出ようとした。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あんた、このライバルである私に喧嘩を売られてなんとも思わないの?」 「えー………どうせももえを賭けて戦ったりするのよね? それなら私の負けでいいわよ。いつ寝首をかかれるか分からないこの不安で仕方ない状況から解放されるなら」 頑なに勝負を受けようとしないルイズ。それを見かねたタバサがルイズに再度お願いをした。 「お願い。もしキュルケがルイズに負けたらあの使い魔を上手いこと使って追い出してあげる」 「本当っ!?」 ルイズの目の色が変わった。 「決闘のやり方は審判員である私がコイントスをしてコインが地面に落ちたときに始めるの。 そしてそのコインが落ちるまでは振り返ることなくただ後ろを向いて歩き続ける。 コインが落ちる前に振り向いたりしたらその時点で相手の勝ちが決定になる。―――これでいいの?」 発案者であるタバサはももえの上から左親指を立てていた。シルフィードの能力を使ったももえは空を飛びながらコインを落とした。 「今よっ!!!!」 渾身の一撃をかまそうと杖を向けたルイズであったが………そこにキュルケはいなかった。 そして、横を向いてみると居た。 そこにはキュルケが大きなゴーレムに捕まっている姿が映っていた。 「お取り込み中のところ悪かったねぇ………」 30メイルぐらいはあると思われるゴーレムの肩に乗っている女は悪びれる様子も無くそう言い放った。 「早くキュルケを返しなさい! まだ用事は済んでないのよ!」 「そうはいかないねえ。この娘は大事な人質なんだから、手放すわけには行かないよ。」 そしてキュルケは女と一緒にゴーレムの中に取り込まれ、ゴーレムから大きな咆哮があがった。 「うおおおおおおおおお!!!!!」 「あ、ロボットだ。」 上空で、そのゴーレムと似たようなものを見たことがあるももえがのん気にそう呟いた。 ???ものしり館??? ロボットアニメ ロボットが活躍するアニメーションを指す 代表作は「To Heart」「魔法少女リリカルなのはStrikers」など 女と同化したゴーレムは勢いのまま宝物庫の壁を殴った。しかし、壁にひびがわずかに入っただけでどうにもなりそうにない。 「うおおおおおおおおお」 それでもゴーレムは諦めることなく壁を殴り続ける。 その様子にルイズはしばし呆然としていたが、気を取り戻して本来キュルケにぶつけるはずだったファイアーボールで攻撃をする。 「きゃあっ!」 ルイズは思わずガッツポーズをした。自分の攻撃が確実にゴーレムにダメージを与えている。嬉しさの余韻に浸るまもなく次の攻撃を加えようとした時 「危ないぞ ミス・ヴァリエール!」 ルイズは思わず声のした方向に顔を向けた。それを見た瞬間あまりの驚きに顎が外れるのではないかと思った。 「きょ、虚無の塔に………手足がついてる。しかも飛んでる………」 虚無の塔はゴーレムに真空飛び膝蹴りを食らわせた。ゴーレムは後ろに吹き飛ばされた。 「タケノヤスクナズチじゃ!」 「何それっ!?」 中から学院長であるオールド・オスマンの声がした。 「タケノヤスクナズチ」と言っているものはこの、虚無の塔に気持ち悪い手足が生えて半ズボンをしている代物の事なのだろうか? ルイズは眩暈がしてきた。 「望むところっ!」 ゴーレムはすぐに立ち上がり、助走をつけて右手を上げる。 「はあああああああっ!タケノヤミカヅチから繰り出されるパンチを食らええええええええっ!!!!!」 「小癪なっ!」 対するタケノヤスクナズチも左手を上げ拳と拳がぶつかりあう。 両者は片方の手でも拳を作って殴りかかるが双方の拳によって防がれた。そして取っ組み合ったまま時間はいたずらに過ぎていき、 「………もう少し広い場所で戦わんか?」 「同感だ……。」 そんなやり取りを残して、二機は上空めがけて飛び立っていった。 「………」 「………」 「………ねえ、タバサ。この使い魔なんとかしなさいよ。」 「任せて」 タバサはそう言うと自分の頭の上にある空間を指差した。 「ここを斬って」 ざしゅっ 「ねえ、タバサ。今のはどういうことなの?」 説明を求めたルイズにタバサはこう答えた。 「今のはただの幻像。つまり裏設定」 「裏設定?」 『ももえのカマで斬られた物の存在はももえが肩代わり』 すると黙り込んでいたももえが急に口を開いた。 「あっ、ルイズ達を連れて田舎に帰らなきゃ。」 そう言ってももえはカマを持って歩き出した。 「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!」 「いや、田舎に帰って病気になってるママの見舞いに行かないと。」 「………今から?」 「うん、今から」 こうしてタバサの裏設定を肩代わりしたももえとただの青髪少女になったタバサとルイズとで里帰りに向かうことになったのである。 ※ おわり これまでのご愛読 ご支援 ありがとうございました ※ 次回より始まる「ゼロの使い魔死神友情タバサの裏設定フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」に乞うご期待!!! 前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ